事業には誕生から死に至るライフサイクルがあり、既存事業が成熟から衰退へと向かう中で、企業の将来的な存続を握る鍵となるのが新規事業の創出です。しかし、実際に新規事業に取り組んで成功し、経常利益の増加などに結びついている企業は全体の1割から2割程度と言われるほど、その成功確率は低いのが現実です。
失敗を引き起こす最大の要因は、既存事業の延長線上で新規事業ができると考えてしまうことにあります。既存事業の拡大がすでに存在する100を110にする仕事であるのに対し、新規事業はまったくの0から1を生み出し、さらにそれを10へと引き上げる仕事です。既存事業と新規事業は180度違う仕事であるという事実を受け入れることが、新規事業開発を成功へ導くための最初の一歩となります。
既存事業の部門では、現在ある事業の利益を守り、着実に規模を大きくしていくことが正しいとされ、高く評価されます。一方で、新規事業において求められるのは、まだ存在しない新しい価値を無から創り出すという、これまでのルールが通用しないプロセスです。
既存事業には「こうすれば上手くいく」という過去の知見や業界内の常識が蓄積されていますが、新規事業は「何をどうすれば良いのか」すら分からない手探りの状態からスタートします。そのため、既存事業の常識や評価基準をそのまま新規事業に当てはめると、新しいアイデアの成長を阻害してしまう結果を招きかねません。既存事業の経験に基づいた良かれと思ったアドバイスが、かえって事業化への大きな障害になることもあるため、新規事業には既存の枠組みから外れた専用の制度が必要不可欠です。
新規事業を推進するための組織体制として、まず挙げられるのが既存の組織構造から完全に切り離して独立させるパターンです。具体的には、「スピンオフ(分社化)」や「コーポレート・ベンチャー」の設立などがこれに該当します。また、小さな新規事業を切り出して別組織にする「カーブアウト」と呼ばれる手法が取られるケースもあります。
この体制の最大のメリットは、会社の直接的な管理系統や既存事業のしがらみから離れ、独自のルールやスピード感で柔軟に意思決定を行えることです。既存事業の評価基準や社内政治に縛られることなく、スタートアップ企業のような機動力を持って新しいビジネスの立ち上げに専念できるため、全く新しい領域に挑戦する際などに非常に有効な手段となります。
2つ目は、新規事業の担当部門を既存事業の日常的なオペレーションから切り離し、本社直轄の組織として設置するパターンです。社長室や経営企画部といった経営陣直下の部門に新組織を配置する場合や、研究開発を行う研究所の下に置くケースなどが考えられます。
この組織形態では、トップマネジメントの意思が直接反映されやすく、全社的なリソースの配分や大胆な投資判断がスムーズに行えるという大きな強みがあります。また、既存事業部門からの不当な干渉を防ぎつつ、会社全体としての戦略的な重要プロジェクトとして推進力を高めることができるため、全社横断的な変革を伴うような新規事業開発において適した体制と言えます。
3つ目は、既存事業との相乗効果(シナジー)が期待できる場合に多く見られる、既存事業部の中に新規事業の担当チームを置くパターンです。事業部内に新たな専用組織を立ち上げるケースと、既存業務と兼務する形で担当者を配置するケースがあります。現在の顧客基盤や技術力、販売網などの社内資産を直接的に活用しやすい点がメリットです。
しかし、この体制では既存事業と新規事業の間で文化対立が起きやすく、目の前の売上を追う既存業務が優先されて新規事業が後回しになるリスクが伴います。そのため、事業部門長がこの構造的な課題を深く理解し、意図的に新規事業の取り組みを保護・支援する強力なマネジメント体制が欠かせません。
最後は、固定的な部署や部門を作らずに、プロジェクト単位で構成されるバーチャルな組織として検討を進めるパターンです。事業計画の大枠が承認された後、本格的な展開に移る前のフィジビリティスタディ(実行可能性調査)の段階などでよく採用されます。各部署から必要な人材を集め、スモールスタートで事業開発に取り組みます。
この形態は、もし仮説検証の結果として事業化を中断することになった場合でも、すぐに組織を解散できるというリスクヘッジの面で大きなメリットがあります。ただし、事業が本格化して検証フェーズから抜け出した際には、継続的かつ安定的な運営を行うために、バーチャル組織から公式な別組織へと体制を移行していく必要があります。
新規事業は不確実性が非常に高く、当初の計画通りに物事が進むことは稀です。そのため、プロジェクト全体を統括し、状況に合わせて柔軟に方向転換を行える仕組みと機能が組織には求められます。具体的には、新規事業の方向性やビジョンを関係者間で共有し、KPIなどの戦略を策定する役割を担います。
また、プロジェクトの進行状況に応じた適切なリソース配分や、撤退基準も含めた厳格なリスクマネジメントを行うことが、事業を致命的な失敗から守る上で極めて重要になります。法務や知財などの専門的なリソースを立ち上げ段階から確保し、不確実性を受け入れつつ効率的に管理する機能が欠かせません。
新規事業を成功に導くには、市場の変化や顧客の隠れたニーズを見極めながら、最適なビジネスモデルと出口戦略を模索する機能が必要です。市場調査から始まり、収支計画やスケジュールを含めた緻密な事業計画を策定します。次に、ユーザーニーズを探るために必要最小限の機能を持つMVP(Minimum Viable Product)を開発し、市場適合性や技術的課題を検証するPoCを実施します。
仮説検証とプロダクトの改良を高速で繰り返し、PMF(プロダクトマーケットフィット)を確認してから本格的な生産・営業体制へ移行するという、柔軟かつ戦略的な事業開発プロセスを担う機能となります。
新規事業の種となるアイデアを持続的に生み出すには、社内の強みや市場ニーズを掛け合わせてテーマを設定する機能が必要です。ここで重要なのは、アイデアという「卵」を新規事業という「ヒヨコ」になるまで保護し、ふ化させるインキュベーションの仕組みです。
さらに、失敗を恐れずに挑戦できる柔軟な風土の醸成と、熱意と粘り強さを持って変革を推進できるリーダー人材の育成もこの機能の大きな役割となります。研究開発部門や営業部門、管理部門など既存組織との協力体制を築きながら、新しい価値を生み出しやすい社内環境・カルチャーへとアップデートしていく機能が求められます。
現代のビジネス環境において、自社のリソースやノウハウだけで新規事業を立ち上げるのは限界があります。そこで重要になるのが、外部機関と連携してリスクを抑えつつ開発スピードを加速させる「オープンイノベーション」の機能です。他業界の企業や革新的な技術を持つスタートアップ、研究機関などの中から、協業先となる可能性のある外部パートナーを探索し、発掘します。
単なる下請けではなく、長期的な信頼関係を築き、双方に利益をもたらす対等な共創体制(パートナーシップ)を構築することで、自社に不足しているピースを補い、市場における競争優位性を一気に高めることが可能になります。
新規事業の立ち上げフェーズでは、まず「何のために新規事業を行うのか」という明確なビジョンや目的を社内で共有し、全社的な機運を高めることが重要です。初期段階では計画通りに進まないことが多いため、完璧な計画を求めるよりも、走りながら考える柔軟な姿勢が求められます。また、既存事業とのバランスを見ながら、初期投資やリソース配分の計画を大枠で策定しておくことも必要です。
この時期に最も重要なのが、アサインする人材の選定です。単に社内で手が空いている人材を集めるのではなく、挑戦意欲が高く、周囲を巻き込める人材を選ばなければなりません。正解の見えないカオスな状況でのトライ&エラーを楽しめる人材を確保し、複数の役割をこなせる柔軟な体制を作ることが、立ち上げのスピード感を維持する最大の鍵となります。
事業の方向性がある程度見えてくる定着期には、各部門から異なる専門知識を持つ人材を集め、全社横断的なクロスファンクショナルチームを組成します。多様な視点からのアプローチを取り入れることで、開発プロセスを一気に加速させることが可能になります。また、この段階で新規事業の小さな成果や進捗を積極的に社内へ共有し、会社全体を巻き込んでいく取り組みが効果的です。
さらに、新規事業ではこれまでの常識が通用しない想定外の壁にぶつかることが多々あります。そうした事態を乗り越えるため、あらかじめ既存の各部署に影響力を持つキーマンと連携を図り、いざという時に協力が得られる社内ネットワークを構築しておくことが、円滑な事業推進において非常に強力な武器となります。
新規事業が軌道に乗り始めた拡大期においては、増加する需要に対応するためのスケーラビリティ(拡張性)の確保が最優先課題となります。営業、生産、カスタマーサポートといった各機能を強化するために、人材採用を含めて柔軟にリソースを拡充・投下できる仕組みを整えなければなりません。
また、事業規模の拡大に伴い、初期のスモールスタート用の組織体制では対応しきれなくなります。ビジネスの成長スピードを鈍化させないためにも、状況に応じて新たな事業部門として社内で再編したり、子会社として独立(スピンオフ)させたりするなど、公式で強固な組織体制へと移行することが重要です。同時に、全社的なバックアップ体制を公式な制度として定着させていくことも求められます。
データからも明らかなように、新規事業の成功には経営トップの強いコミットメントが不可欠です。しかし、現場の細かな作業にまで口を出すのではなく、大枠の進捗管理や重要な意思決定を担いつつ、実際の業務遂行や指揮は現場に任せることが成功のポイントとなります。
同時に、既存事業に従事する社員からの理解と協力を得るためには、経営陣が自ら「なぜ今、この新規事業に取り組む意義があるのか」を社内に向けて積極的に発信しなければなりません。経営幹部が戦略や計画を透明性をもって開示し、新規事業に関する進捗情報や顧客の声をこまめに共有することで、既存事業側の不満や反発を和らげ、全社一丸となった協力体制を築くことができます。
新規事業の革新的なアイデアは、日々の厳格な管理体制やKPIの追求の中からは生まれにくいものです。そこで参考になるのが、米国の3M(スリーエム)社などが取り入れている「ブートレッギング(密造酒づくり)」という独自のカルチャーです。これは、たとえ上司の命令に背くことになっても、自分の信じる研究や開発のために会社の設備を使っても良いとする非常に寛容な制度です。
この仕組みのおかげで、失敗作とされた接着剤から大ヒット商品が生まれました。実現の目処が立つまで本社の管理部門に見つからないように、いわば「隠れて」新規事業を企画できるような自由度と余白を組織に持たせることは、硬直化しやすい組織において、新しいビジネスの芽を潰さないための有効な手段となります。
新規事業の立ち上げには、起業家的な視点からの事業運営や、仮説検証のPDCAサイクルを回すマネジメントスキルが必要です。しかし、一般的な企業において、こうした新規事業特有の経験や知見を豊富に持った人材は社内に不足しているのが実情です。そのため、良かれと思って既存事業の常識でアドバイスをしてしまい、結果的に新規事業を停滞させてしまうケースが後を絶ちません。
社内にノウハウがない場合は、新規事業の経験が豊富なコンサルタントなどの外部専門家を積極的に活用し、定期的な進捗レビューやファシリテーションを依頼することが成功への近道です。外部の専門家と一緒に事業計画を作り上げながら自社にノウハウを蓄積し、最終的には自分たちで自走できる組織を構築していくことが重要となります。
新規事業の創出は、既存事業の延長線上では決して成功しません。自社に最適な組織体制のパターンを選び、事業開発やカルチャー変革といった専用の機能をしっかりと備えることが重要です。
また、フェーズに応じた柔軟な体制づくりとともに、経営トップが自らビジョンを語り、既存事業メンバーの理解と協力を得ることが最大の鍵となります。本記事のポイントを参考に、社内の推進体制と制度を見直し、新たなビジネスの種を大きく育てていきましょう。
ここでは、「仕組み・制度化」「内製化」「低コスト」とそれぞれの目的別におすすめの新規事業コンサル・支援会社をご紹介。それぞれの強みを裏付ける成功事例もあわせてチェックしてみてください。
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