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財務状況の把握や経営戦略との整合性を考える財務分析や予算管理といった領域は、新規事業においても効率性や収益性を検討する上で欠かすことができません。新規事業コンサルにも求められる財務分析・予算管理について解説します。
企業の経営やそれぞれの事業において、財務面の各種情報や経営状況・事業成果などを細かく把握して総合的に分析する過程は、単に赤字を防いで黒字を目指すためだけでなく、経営戦略や事業戦略の有効性や実効性を検証するために欠かすことができません。
また財務上の健全性や収益性を検討するためには、適切な予算管理を行うことも不可欠。健全かつ安定した予算管理を維持することで生産性を高めて成長性を維持することが可能になります。
特に新規事業では過去の実績や比較データが少なく、財務分析や予算管理においても冷静かつ詳細に行うことが求められるため、新規事業コンサルへ依頼する際にも相応の財務分析・予算管理のスキルを有していることが重要です。
財務分析は財務データを収集・分析して経営状況や事業戦略の有効性・実効性を検証する手法であり、財務分析において利用する各種データや資料は貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を始めとして、様々な情報や数字が用いられます。
財務分析ではそれぞれのデータや書類に応じて適切な分析手法を適用し、キャッシュフローや予実管理の正確性、将来的なリスクや成長性などを総合的に判断することが大切です。
財務分析における大きなテーマとしては、以下の5つの手法に分類され、それぞれに応じて効果的な分析手法を選択し、正しい検証結果と考察を導き出すことが求められます。
財務分析において収益性や安全性、生産性、そして成長性を検証するために、それぞれのテーマに合わせて適切な分析手法を利用することがポイントです。
収益性分析とは文字通り企業経営や各事業における収益性を分析するものであり、ただ赤字や黒字の金額だけを考えるのでなく、コストに対して得られた収益にもとづく「利益率」を考えなければなりません。
なお、収益性分析にはさらに資本収益性と取引収益性という2つの項目があることも重要です。
資本収益性は、総資本と自己資本に対して利益がどのように関係しているか、その比率を分析する手法です。
考え方として「総資本経常利益率(ROA)」と「自己資本当期利益率(ROE)」があり、以下のような違いがあります。
ROEは投資に対してどの程度のリターンを得られたのか考える上で必要な指標です。ROEの低い会社や事業は投資価値があまり高くないと考えられます。
取引収益性はコストと売上、利益の関係を分析する手法です。指標として用いられるものには以下のようなものがあります。
売上高総利益率(粗利)は総売上に対して原価を差し引いた利益です。事業の収支を考えるためにはそこから各種経費を差し引いて利益計算を行います。また事業により得られた経常利益と、資産を売却して得られた利益などを分けて考えることも大切です。
安全性分析は企業の安全性や経営の安定性を分析する項目であり、例えば借入金(債務)がある場合に企業としての返済能力や支出とのバランスを考えます。
安全性分析が適正に行わなければキャッシュフローが悪化して返済困難な状況に陥るかも知れません。
安全性分析には以下のような考え方があります。
売上アップのために資産を有効活用しているか、資産の回転率や事業としての有用性などを検証する分析です。
例えば一定の資本で売上アップを目指せる場合、その資本の回転率や事業の実効性が高いと考えられます。また固定資産の回転率を確認して、効果的に売上アップへつながっていれば、固定資産が無駄なく使われて事業の有効性が高いと判断できるでしょう。
なお売上高や期末残高に対する棚卸資産の割合を確認することで、需要と供給のバランスを考えられます。仮に棚卸資産が多い場合、事業活動が鈍化したり在庫管理に問題があったりすると懸念されます。
生産性分析は企業や事業の生産性を考えるものであり、企業が保有する人材や資産などをどれだけ有効活用しているか確認できる点が重要です。
生産性分析では対象となる項目ごとに以下のように分類されます。
労働生産性は、売上総利益に対して社員1人当たりが関与している数値であり、数値が高いほど人材マネジメントにおける生産性が高いと判断できます。逆に数値が悪い場合、従業員数が過剰であったり、人材管理が不十分であったりするかも知れません。
それに対して資本生産性は、資本に対する付加価値であり、付加価値とは経営努力や事業活動、労働によって生み出された価値を指します。一方、労働分配率は付加価値に対する人件費の割合であり、割合が高すぎると人件費のコスト管理に問題があるといえるでしょう。
成長性分析は企業や事業の今後の発展性や将来性を検討する項目です。売上の成長率や利益の伸び率、事業特性や市場の動向なども考慮した上で未来における企業や事業の価値を考えます。
参考になる指標としては、前年の売上高と今年の売上高を比較した「売上高増加率」や、前期経常利益と当期経常利益の差額を元にした「利益増加率」、その他にも総資産増加率や純資産増加率、また従業員の人数に着目した従業員増加率などもポイントです。
特に少子高齢化が深刻化して慢性的な人手不足に陥っている業種・業界も多い中で、売上高増加率が伸びていても従業員増加率がマイナスであれば、将来的に人材不足になってしまうリスクがあります。
新しく事業を立ち上げたり、その利益率などを確認したりする上で、予算やコストについて比較して分析することも欠かせません。
予算管理はそもそも事業の成果として想定される売上や利益に対して、あらかじめ適切な金額を試算した上で、その中から必要な各種経費をまかない、正しく消化して売上や利益へつなげていくことが重要となります。そのため一口に「予算」といっても実際には事業ごとの原価や支出、企業運営にかかる経費、また支出する金額だけでなく売上として想定される金額や利益として期待される金額なども含みます。
予算管理として考えるべき予算には以下の4種類がある点に注意してください。
売上予算とは文字通りその事業において想定される「売上高」に対する数値予算です。
あらゆる経営戦略や事業戦略において、具体的かつ正確な売上予算を考えられなければ、実際にどれだけのコストや経費を想定するのか各種予算をシミュレーションすることもできません。
そのため新規事業においては類似した事業にもとづく過去の実績、競合他社や市場規模などと比較して考えられる数値、あるいは事業として目標とする金額といった各種数値を総合的に考慮した上でシミュレーションすることが売上予算の作成に必要です。
原価予算とはその事業における原価として支払う費用であり、また原価として想定される金額です。
利益の予測を立てて事業性や生産性などを考える上で、原価を把握していなければ想定の売上から差し引いてシミュレーションすることもできません。
原価は現在の市場価格にもとづいた金額をベースとして計上しますが、長期的な事業であれば時期や国内外の社会情勢、市場動向による影響も加味して考える必要があります。
経費予算とはその事業において必要経費として支出すると見込まれる金額です。
また経費にはその事業を実施するために直接かかる経費と、事務所の家賃や運営にかかるコスト、従業員へ支払う人件費といった間接的な経費があり、直接経費だけを差し引いて黒字になっていたとしても、間接経費も含めて総合的に再計算すれば赤字になっているといった状況は避けなければなりません。
また経費予算が実際に支出された経費の金額と乖離している場合、事業計画の通りに活動できていない可能性があります。
利益予算は、売上予算から原価予算や経費予算などを差し引いて得られる数値予算であり、その事業を実施する価値と考えることも可能です。
なお、仮に売上予算に対して実際の売上額が到達していなかったとしても、原価や経費のコストを削減することにより、利益予算は達成できる可能性があります。
予算管理は単に予算の数字を決めるだけでなく、実際に事業活動を行いながら予算と実状の比較をチェックしつつ予実管理を適正化することが大切です。予算管理や予実管理ではPDCAサイクルを効果的に回していくことが求められます。
予算管理では最初に様々なシミュレーションや情報収集にもとづいて適切な予算編成をプランニングすることが必要です。
なお、予算編成の品質が悪ければ事業の成功性や有効性、生産性なども低下してしまうため、予算編成は合理的根拠と十分な調査を行った上で実行します。
それぞれの予算にもとづいて事業を実行していきます。なお、物品の購入や外注、その他の経費支出については予算の枠内で行えるよう工夫しつつ、最大限の効果を得られる方法を考えなければなりません。
予算として計上した数値と、実際に得られた数値を比較して、その差額や、どうして差額が発生したのかといった理由を確認します。また理由による影響が一時的なものか、長期的なものか、あるいはどうして最初に理由を検討できなかったのかまで細かく考えましょう。
Check工程で得られた分析結果にもとづいて、次の予算編成の時により高品質で高精度な予算編成をプランニングするフィードバックも重要です。全くの新規事業ではフィードバックの元になるデータが限られているため、必ず予算管理を適正化して情報収集に努めなければなりません。
予算管理は単に予算の金額を決めるだけでなく、様々な支出やコストを検討して、適正な予算編成を行った上で事業を実施していく一連の流れです。そのため企業経営や事業管理において予算管理は極めて重要な項目であり、経営方針や事業理念、営業活動のコンセプトとも密接に関連します。
また予算管理には財務分析といったスキルも重要であり、スキルが不十分な状態で事業を始めると事業基盤そのものが不安定になります。そのため赤字や事業失敗のリスクを軽減するには最初から十分な財務分析スキルを有する事業コンサルなどへ相談することが推奨されます。
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